日本の起源 Ⅰ


>紹介  : 日本とは何か。その起源に遡ってみると、何かが見えてくる。

起源とは :それは列島、神話、民族、国家、文化のいずれの起源を意味するのか? 何が重要かと問われれば、現在の私達に影響を及ぼしている文化だろう。その文化を育んだものとして、前述の全てが関わっている。前半で日本の精神文化を形作った民族、神話、国家の起源を探る。後半で現在の日本人の意識や国力を育んだ要因を、列島、民族、国家の歴史を主に海外と比較しながら概観する。

日本民族の起源 :民族が神話と国家を作ったと言える。そこに住む人々が、当時の自然や外敵に抗しながら、社会内の葛藤の中で、受け継がれていた文化を生かし、新たな社会を形成する時に国家が誕生し神話も再構成された。民族の原初状態こそ、起源を語るにふさわしい。
Ainu

日本列島が大陸から分離し出現したのは、1千万年前頃である。この時期は、猿人とチンパンジーがまだ分岐する前で、その祖先はアフリカに生息していた。進化を遂げた現世人類が地球全域に達することになる出アフリカは7万年前頃である。一部は中近東から海岸沿いに東南アジアを経由し、他は途中からユーラシア大陸内部を北上し、徒歩で氷河期の北海道から日本列島に最初に進入するのは4万年前頃になる。袂を分かった人々は少し遅れてベーリング海峡を渡りアメリカ先住民となった。その後、1万5千年前の最終氷期の海面低下により対馬海峡からも移民があり、その後の温暖化により縄文時代が始まった。縄文人は世界でも希な狩猟採集生活を営みながら土器を伴う定住を行った。彼らは狩猟採集に適した日本列島の東半分に多く暮らした。中国大陸で文明が隆盛を迎えるにつれて、中国や朝鮮半島から舟による日本への移民が続いた。日本列島だけでなく、台湾と沖縄にも先史時代から人の移動はあった。

つまり私達の祖先は東南アジア、東ユーラシア(中国、朝鮮、ロシア)、アメリカの先住民に近く、アイヌ、琉球人に最も近いことになる。その移動の経路から言って、その文化や生活様式、神話、言語は、東南アジア、東ユーラシア(バイカル湖など)と繋がり、後に中国や朝鮮半島からの影響を受けたことになる。日本の石器や神話に南方と北方、海洋と大陸の影響があるのはそのためである。これらの移民流入が最大の影響を与えたのは何時であろうか。弥生時代以前は、全て狩猟採集生活者の流入であり、社会全体を変革させる原動力とはならなかった。この時をもって水稲栽培による農耕社会への転換が九州から始まり、東に広がっていった。これが村から都市を生み、やがて国家成立へと推進させることになる。長江の稲作文化を伝えた弥生人は中国の春秋戦国時代の混乱を逃れた人々だっただろうから、中国文明の知見を持ち込んだ。さらに紀元後、朝鮮半島から渡来した人々は成熟した国家である高句麗や百済の人々であり、日本の国家建設とそれに纏わる神話形成に重要な役割を演じることが出来ただろう。尚、新羅建国は4世紀中頃であった。

日本神話の誕生 :神話はなぜ生まれ伝承したのか? 神話は人々が社会を維持するための規範や秩序などを正当化するために、一回限りの真実の出来事として権威づけられた物語である。さらに聖典(記紀)や儀礼と結びつくことにより伝承が強化される。それは人間があらゆる現象に因果関係を求め、存在価値を認めてこそ安心出来る心性に基づいている。したがって神話には宇宙(混沌から生じた)、人類(粘土から作られた)、文化(神や動物がもたらした火や栽培)などのあらゆる起源が語られている。
Jinnmu

八世紀初めに編纂された古事記、日本書紀、風土記による日本神話には海外の神話を起源とするものが多い。古代イスラエルの聖典(旧約聖書)やギリシャ神話にも先進文明であるオリエントや異境の神話が取り込まれている。神武天皇のヤタガラスは高句麗の三足烏を連想させるが、この鳥の形態はアジアの太陽崇拝と関連して広く見られる。またニニギのミコトが山頂に降り、統治者となったという天孫降臨のパターンは北アジア(朝鮮半島など)に多く見られる。死体から有用な栽培植物、特に球根類が生じるオオゲツヒメの神話は、東南アジア島嶼部発祥のハイヌウェレ神話の系列である。イザナギ・イザナミが島を生む物語は東南アジア発祥で、中国を経由した神話の系統を引く。出雲の国曳き神話は太平洋圏に分布する創世神話の系統に属する。このように国土、神、王権(天皇)、文化の起源を語るものは多いが、海外と比べると宇宙開闢、人類、民族の起源については貧弱で、神の系統には混乱がある。それは頻繁な移民流入と先進文明を急速に受容し成長した結果かもしれない。

古代文明の神話と比較すれば見えてくる。古代文明(一次文明)への成長期間、つまり定住農耕開始から都市国家成立には数千年を要し、神話はその間に統合編纂されていく、一方それから派生する二次文明はその期間が短いが、それでも一千年を越えるのが通例である。古代文明のインドと中国は国土が広く、中心勢力が移動することになるので一貫性の無い種々雑多な神々が存在することになる。神話が誕生し始めていた先史時代の中国では広大な平原や河川に民族が分散しており、漢民族成立により山岳部に追いやられ少数民族として生きることになった。インドもほぼ同様の経緯を辿ったと言える。一方、二次文明であるイスラエルとギリシャは大陸と陸続きではあるが、その地形ゆえに先進文明国の侵略に対して絶妙の障壁を有し、侵略を受けながらも狭い領域で、国家を熟成させて行くことになった。このことが神や民族の系譜に一貫性を持たせ、単一民族の自覚が生まれることになったと考えられる。それに比べ日本は纏まりやすいはずだが、民族や神々の系譜を完璧に繕うことは出来なかった。多くの神話において王権は神々の正統な系譜により権威づけられるが、神々の血統や人物像(スサノオの天上と地上での行状の違い)は縫合され錯綜している。これは最初の統一国家形成が促成栽培であり、時間をかけた強大な権力により統一ではないことを示唆しているのではないだろうか。

神武東征の神話が当時の政治情勢を物語っている。宮崎を発ち、北九州、広島、岡山、大阪を経て、和歌山を迂回し奈良に入り、それを征討後、初代天皇に即位した。ここには日本列島が大陸文化を受け入れ最初に繁栄した群小国がほぼ網羅されている。東征の目的は、東に美しい土地があり、天下を治めるにふさわしく、都を建設することとしており、ここで初代天皇を号したことに言い尽くされている。この物語には王権の正統性と共に、大和が重要であることを明言している。考古学的にはこの東征を裏付ける証拠はない。それは大和の地で支配集団の文化が急激に九州文化と交代した形跡が無いことに尽きる。

神話「黄泉の国」に日本文化の原初の一面が見える。死んだイザナミを追ってイザナギは黄泉の国(地下)に下った。恐ろしいものを見て、そこから逃げ出して来たイザナギは穢れてしまい、川で禊ぎを行った。この時にアマテラスやスサノオが生まれた。すでに死への嫌悪感と穢れ、禊ぎの概念が確立している。記紀成立は朝鮮半島経由の仏教公伝から180年を経っているが、おそらくは日本の風土が基底にあり、それに仏教教義が後押しする格好で、その概念は成立したのだろう。

倭国の誕生 :都市遺跡を国家であったと認めるには、どのような条件で判断すれば良いのだろうか? 必ず中心になる都市が誕生しており、それは軍事拠点、非農業者(工人、官吏)、住民の階層性、宗教センター、交易センターなどの要素が網羅されており、当代随一の規模であったはずである。そこには王(神の系譜である天皇)が存在し行政、裁判、交易と外交を行い、属国を支配した。この条件を満足させるものこそが最初の統一国家となる。

邪馬台国が最初の統一国家であるとしても、その場所を未だ特定出来ていないが、エジプトの初期王朝誕生の経緯に、そのヒントはある。紀元前6千年に、西アジアから農耕がナイル下流の湿地帯ファイユームに伝わり、やがてナイルに沿って1千kmの範囲に小国が勃興した。それらが南北二つの連合体に纏まり、前3千年頃さらに統一され、ここにエジプト王朝が始まる。この時の最初の首都は支配域のほぼ中心点ティニス(地図の赤丸)になった。地図中、濃い緑が耕作地を示す。後にピラミッドが造営され始めると、おそらく経済、交易、建築材などの理由で首都はデルタ地帯のすぐ上流メンフィスになった。これは最初に文明や文化が伝わった地域が必ずしも首都に成り得ず、地政学的、経済・交易の点で重要な所が選択されることを示している。一方、日本建国史と大いに異なるものがあり、エジプトに農耕が伝播してから統一国家誕生までの期間に数千年を要したにも関わらず、日本では数百年と短いことである。これは先進文明を取り入れることが容易で、かつ大国からの侵略と干渉がなかったことに起因している。
Ejiputo
さらに大和の地に邪馬台国が誕生した背景には、中国が三国志時代(後2~3世紀)の混乱に突入し朝鮮半島にこれが及び、北九州勢が後ろ盾を失ったことにある。これらが短期間の統一国家を可能にした。さらに言えば、自らの民族で邪馬台国を建国後、いかなる異民族にも一度たりとも支配された経験がない国、このようなところは陸から数千km離れた小さな孤島以外には存在しないだろう。それに加え、遊牧民族の侵略を免れ、農耕経済文化(家長制)を営々と維持出来たことが、天皇制に代表される血統や伝統、権威を重んじる心性を強化したと言える。大陸の文明や国家は例外なく、アーリア、ゲルマン、モンゴルなどの遊牧民族の侵入と支配を受けた歴史を持っている。これらが日本文化を大きく特徴づけたものの一つになった。

日本の特異性
 :特異性は海外の国家形成史との比較、特に島国であるイングランド、台湾、沖縄にその差異が端的に顕れています。イングランドではストーンヘンジを造る先住民が古くから暮らしていたが、紀元前9世紀から2千年の間に異民族が三度侵入し、支配者が交代した。古代において、この島はヨーロッパではメソポタミア文明の影響が遅れて到達する所であり、他のヨーロッパ先進国からドーバー海峡や北海を通じて侵略と干渉を受け続けた。しかしある時期を過ぎると、相応の自然と国土を持つ島であり、文明交流と交易に有利に働く大陸に面していたことが独立と経済発展を可能にした。
Map

一方、東アジアの端にある三つの島はどうであろうか。台湾島は地形的に、大陸からの分離と氷河期の陸続きの点で日本列島と同じ歴史を持っている。紀元前3千年前頃までは中国大陸の文化圏(土器類の類似)に属していたが、数百年前まで、大多数を占める先住民は狩猟採集生活を続けていた。これら部族は抗争を続け、統一王朝を作ることはなかった。中国大陸からの少数の移民が台湾の西河岸に沿って農耕を細々と行う程度で、先住民とは融合することはなかった。驚くことに、文字の使用が始まったのは17世紀のオランダが植民地時代からで、押しつけであり、後に廃れてしまう。その後も自らの統一政府を造れず、外国からの支配交代が続きます。台湾が大いに発展するのは日本植民地時代の経済基盤造りと太平洋戦争後の米国支援の賜でした。
Taiwan

一方、先史時代の沖縄本島は日本の文化圏に属し、農耕は12世紀頃に定着し、15世紀に統一王朝が始めて誕生した。沖縄は国家誕生期から中国との冊封体制を続け、朝貢貿易が経済を豊かにしていたが、後に島津藩が中国との密貿易を企て、琉球政府を裏で確実に支配して行きます。小さな琉球は経済資源が乏しく国力が貧弱であったので、2大国の間で生き延びざるを得なかった。日本は朱印船貿易を行っていたが、中国との交易をバックに、タイのアユタヤに貿易船を多く送っていたのは琉球でした。その沖縄の海洋上の役割を物語る例があります。ペリー提督が江戸幕府に開港を求めて最初に寄港し、また太平洋戦争末期に米軍が日本上陸を最初に行ったのが沖縄でした。これらのことは小さくてそれなりの経済と文化を持ち、中国と日本の関係で海洋上に絶妙な位置を得ていたからです。逆にこの長い間に培われた大国依存体質が、戦後の沖縄を翻弄させ、自立の道を奪う一因になったのかもしれません。やはり基地の存在が問題を大きくしたことは間違いない。
Okinawa
このようにして同じ島国でも国家形成、文化、国力には差異が生じました。この違いはなぜ生まれたのでしょうか。大陸と島の最短海上距離を比べると、イングランドは40km、台湾は150kmとなる。日本は対馬を飛び石にし最短50kmですが、中国からの陸伝いの侵略には満州と朝鮮半島が障壁となりました。沖縄は大陸から600kmですが、九州から島伝いに来ることが可能です。ポイントは先進文明が伝わり易く、その先進国の侵略に対抗出来るかが、自国の独立や基盤を決定し、自国の経済力と海外との交易力が次の発展につながるようです。朝鮮半島、ベトナム、古代イスラエルは大国に隣接するが故に、文明が比較的早く生まれましたが、自立の道は遠のきました。イングランドと比べ日本は、中国の文化停滞を受け、ヨーロッパ文明から遠い分、隆盛には遅れを取りましたが、海外からの侵略を免れた分、明治維新以降もスムーズに実りを得ることが出来ました。台湾はその大きさと豊かな自然に恵まれながら、大陸からの微妙な距離が、統一国家形成を遅らせ、後に侵略の餌食になったと言えます。沖縄はその小ささと遠さが、徹底的な侵略支配を免れさせたが、結局自立を阻むもとなった。さらに時代の変化(清の鎖国政策)がせっかくの海洋交易手腕の生かす機会を奪った。

幸運な日本
 :結局、豊かな自然(亜熱帯と温帯の森、暖流)、大陸から朝鮮半島経由の絶妙な距離、古代において統一可能で最大の島という地球上類い希な偶然が日本に幸運をもたらした。例えば統一可能な領域は非常時に軍勢を派遣出来る距離によって制限され、兵站能力により決まる。神話によると神武東征は舟軍とあるが、倭国内での遠征は内海と外海の沿岸を舟で、陸上では徒歩の片道100km程度で事足り、細長い島国は統一には適していた。この統制しやすく、侵略を免れた日本は、単一民族、単一文化、一系統の王統へと収斂していくことになった。もっとも単一民族などの認識が確立するのは江戸時代以降(?)であっただろうが。誰かが仕向けたと言うよりも、人間の特性として己が社会を優位に見立て団結する帰属意識に起因し、たまたま単一と一系統の概念を攪乱させられることも、またイスラエルのように特に強化する必要もなかったことによる。集団が移民先において自らの文化のオリジナリティをより重視するのと同じ心理である。また社会思想や意識も特定の天才によって生みだされるものではない。13世紀の親鸞と16世紀のルターに共通した、信者は平等で絶対唯一者(阿弥陀如来、イエスの言葉=聖書)のみに帰依する教義は、日本と北西ドイツの人々の信条に一致するものがあったからこそ受け入れた。同様にファシズムがドイツと日本にこそ猛威を振るったのだ。

これら国民心情が有利に働いたのが徳川時代の安定と発展であり、将軍のトップダウンによる新田開拓や灌漑工事、森林規制と保護などの改革と統制、さらに寺子屋、世界一の大都市江戸にそれが現れている。鎖国政策は国内の混乱を避け、ヨーロッパの黒死病の進入すら防ぐことになったが、これを可能にしたのは海外交易に頼らなくてよい経済力(主に農林水産)と自然があったことによる。しかし末期には貨幣経済で混乱を招くことになるが。続く明治維新での大政奉還は、未完成の市民革命と言えるが、流血が少ない希有な革命であった。植民地であったアフリカや南米、中近東の国々は、独裁政治からなかなか脱することが出来ずに悶えている。それに比べれば日本人は統治されること、することに対して、両者共に何かしら良識が育っているように思える。しかし、これがいつも良い方向に働かないこと、突如として瓦解することを識る必要もある。昭和初期に沸き上がったファシズム(日中戦争から太平洋戦争へ)が最悪の例である。結局、大和民族が優れていたのではないことを了解して貰えたと思う。当然ながら単一民族と言うことにも問題はある。世界中のほとんどの民族は元を立たせば混血である。大陸からの距離や国土の偶然に恵まれ、ここ2千5百年間の状況が日本に幸いしただけである。今後グローバル化、情報通信時代、資源枯渇、環境破壊が日本にどのように影響するのか。我々の文化や国民意識でその変化に対応出来るのか。重要なことは、世界を正しく把握し自らが陥りやすい心性に気づき、間違った選択をしないことである。

履歴 : 2012/01/25作成、読書会で配布、2012/04/16コピーで投稿。

Categories: culture+society, history+evolution, <japanese language | Tags: | Leave a comment

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