私達の戦争 39: 抑止力とは


1抑止力

*1

 

防衛を語る際、よく抑止力が使われます。

理解しているはずの抑止力ですが、これがまた危うい。

落とし穴を見ていきます。

 

抑止とは

身近な例を挙げると。

適度な運動をし、効能のある食品を摂取し続ければ、病気を抑止することになる。

犯罪の罰則を強化し、警察が逮捕を確実にすれば犯罪が減り、犯罪を抑止することになる。

よく使われる抑止だが、意味合いは単なる予防から、他者の意志を操作して損害を防止する段階まである。

 

2日独

*2

 

攻撃に対する抑止とは

危害や攻撃を加えるおそれのある相手(国)に対して、報復の形で、より大きな損害を与えうることを相手にわからせて,その行為を思いとどまらせることを期待する戦略をいう。

これを聞いただけでは、疑いの無い実効ある戦略だと納得してしまいます。

 

少し例を見てましょう。

日本は米国との戦争を避ける為に、日独伊三国同盟を締結しましたが、1年後、太平洋戦争を開始せざるを得なくなりました。

この同盟の目的は、快進撃しているドイツが世界の覇者になることを確実視した日本が、その軍事力を背景に米英の戦意を挫くことでした(他の理由もあり)。

しかし逆に、中国からの撤退を日本に要求していた米英は、それにより日本が更なる中国侵攻の意志を強めたと考え、大打撃を与える経済制裁に出た。

 

この抑止が逆効果になった理由は、日本が予想していた通りには米国が認識しなかったことにある。

日本は、日独の軍事力が米国に大きな脅威を与えると予想したが、米国は意に介さず、日本が引き下がらないなら早く開戦し叩くべきであると判断した。

この例からわかるように、互いの認識が予想と異なると逆効果になりうるのです。

 

3ルーズベルト

*3

 

抑止の成立条件

抑止が効果を発揮するには、三つの条件があるようです。

  1. 攻撃側(日本)よりも、防御側(米国)の軍備が優勢で、戦意が高い。
  2. 攻撃側(日本)が、この防御側(米国)の軍備と戦意を正確に把握か、過大に評価している。
  3. 攻撃側(日本)が、防御側(米国)を攻撃する時は、互いの軍事力や得失を合理的に判断している。

 

この三つの条件がすべて満足されていれば、通常、攻撃側は戦争を始めないはずで、抑止が効いて戦争が起きないことになります。

 

しかし太平洋戦争の開戦はどうだったでしょうか?

日本は上記成立条件のBで、自国と同盟側を過大評価し相手を過小評価した。

Cでは、自ら退路を断ち追い込まれたあげく、いたしかたなく短期決戦への奇襲攻撃となった。

 

このような例は、あらゆる開戦時や、戦火が拡大していく過程でいつも大なり小なり起こっているのです。

 

4孔明

*4

 

理由は簡単

自国の軍事力を大きめに誇示したり、部分的に不明瞭したりすることはあっても、全体として小さめに見せることはありません。

要は、相手の戦力や戦意を適確に把握することは困難なのです。

さらに、戦争気運が盛り上がっている時や戦争継続中において、自国と相手国の軍備や戦意を合理的に判断することは至難の業です。

この問題は遙か昔からあったことで、歴史的に有名な軍師や戦略家は、自国の軍事力をカムフラージュすることで、敵将の判断を誤らせ勝敗を制した。

 

5キッシンジャー

*5

 

抑止の問題はこれだけではない

現代では、異なる問題が重要です。

それは上記成立条件Aの「戦う意志を示す」にあります。

これをわかりやすく言えば「なめられてたまるか」「見くびられてたまるか」でしょうか。

 

かつてベトナム戦争の戦略についてエルズバーグ博士が国務長官のキッシンジャーに悲観的な見解を述べたことがありました。

この時、キッシンジャーは「見くびられると相手をつけあがらせるから」と、より強硬な戦略立案を要求した。

一世を風靡したキッシンジャーですが、戦争を有利に終わらせる為には、こちらがより強硬に戦う意志を示すことが重要だと信じていたのです。

ベトナム側も巨悪を撃退するには、同様だと信じていたのです。

これでは戦争の終結は遠のくばかりです、後に気づいて異なる戦略を採りますが。

 

実は、仮想敵国と想定した時から抑止を考慮し始めるので、両国は戦意や敵意を相互に高めていくのです。

例を見ます。

三国同盟を締結した松岡外相は、帰国後、一気に外務省から親米派を根こそぎ排除しました。

通常なら、米国を最大の仮想敵国としたのですから、米国の情報通を温存すべきなのですが。

彼にとっては、それよりも親独派で一本化することの方が政局を乗り切れると考えたのです。

この例は少しわかりにくいですが、他国を敵とし抑止を想定することは、互いに警戒、情報隠蔽、干渉を始め、ついには疑心暗鬼に陥るのです。

 

 

まだ問題があります

それは自衛の項で説明したように、この抑止力程度からやがて無限連鎖のように軍備拡大競争に陥るのです。

米ソの核開発競争が最近の例でした。

 

もう一つは、米国の銃社会で見た問題です。

各人の銃所持が犯罪を抑止する程度よりも、衝動的で容易に銃犯罪を増加させることにより、結果的に銃死亡者が増えました。

同様に自由な軍事力保持は、抑止力よりも国家間の戦争や内戦も増加させるはずです。

 

つまり抑止は戦争を減らすよりも、潜在的に戦意を高まらせ、軍拡競争を行わせ、最後はちょっとした切っ掛けで戦争を始めさえもするのです。

抑止とは単純に信じられるものではないのです。

 

 

 

 

 

 

 

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