デマ、偏見、盲点 20: 衆愚政治の恐ろしさ


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今日は、今、世界を席巻しつつある衆愚政治についてみます。

これは大衆迎合、ポピュリズム、右傾化、全体主義とも重なります。

世間ではこれを肯定する人々がまだ多数おり、危険な状態が続いている。

 

 

 

はじめに

皆さんはヒトラー総統やトランプ大統領は衆愚政治やポピュリズムを象徴する人物と思いますか?

 

言葉の厳密な定義は、学者でも意見が分かれていますので、気にしないでください。

イメージで結構です。

例えばヒトラーとトランプの似ている所はどのようなところでしょうか。

 

先ず、演説時の壇上のパフォーマンス、特に表情、手の扱いなどが似ています。

共に一貫性のある思想や政策がない(ヒトラーは適宜変節していった、トランプは支離滅裂か自由奔放)。

既存のエリート層、政治家、大企業、マスコミ、知識人を徹底的に否定する。

一方、我こそが大衆、労働者の味方で、雇用と労働条件向上を実現すると宣言する。

その達成手段は、自民族(ゲルマンかホワイト)だけの繁栄、他者(ユダヤかムスリム)を排除、そして力の行使(軍事力か経済力)で共通する。

 

二人は大変似ており、ヒトラーが衆愚政治によって生まれたのだから、トランプもも衆愚政治の産物と言えます。

それではなぜ、悲惨な歴史を知っているはずの人々が、未だにトランプを評価するのでしょうか?

 

トランプを肯定的に見る識者達の見解を要約すると以下のようになるでしょう。

一つは、彼らの多くは米国の共和党寄りのようで、単に民主党嫌いが理由のようです。

もう一つは、トランプが優れたトップの可能性を秘めいていると言うものです。

 

実は、ここに問題があるのです。

歴史的に見て、衆愚政治でトップになった人物は、その大言壮語なスローガンと破壊的な行動力が大衆から絶大な期待を集めていたのです。

 

衆愚政治のトップに共通する特徴があります。

彼らのほとんどは徳が無く下劣な品性の持ち主ですが、敵をやり込める口汚さなどの攻撃能力や大衆受けする芝居がかった振る舞いが前者の欠点を帳消しにして余りあるのです。

ヒトラーの場合は、クーデター未遂事件での収監時の態度が潔しとされ、トランプは身銭を切って選挙を戦ったことで好感されたように。

また共に、敵を徹底的に打ちのめします。

ヒトラーがスパイ紛いの汚い仕事をしていようが、トランプが税金を払わず、幾度も倒産して事業を拡大していようが人々は問題にしないのです。

 

衆愚政治の真の恐ろしさは、このようなトップを待ち望む人々がたくさん存在することなのです。

人々の期待を実現すると大風呂敷を広げ、行動力があると思わせれる人物が、衆愚政治のトップになるのです。

その結果、多くは破局に向かうのです。

 

破局に至る理由は簡単で、その手の行動力があると思われる人物は道理を顧みず、未来を深慮せず、他者を害することを厭わないからです。

社会が閉塞状態になったり、外からの脅威に晒されたと大衆が強く感じると、このような人物こそが、現状を打開できる人物と見なされ易くなるのです。

このことは米国で行われた心理学の泥棒洞窟実験が良く説明しています。

 

国が軍事的脅威に晒されると、粗野であっても、こわもてのトップが選ばれるのが常です。

衆愚政治から生まれたトップがいつも不幸をもたらすとは限らないが、社会が危険になる確率は高まる。

 

 

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衆愚政治の代表例

実は、世界史に名だたる衆愚政治の極め付きが2400年前にあった。

これは有名な古代ギリシャの都市国家アテナイで起きた。

この実に馬鹿げた悲惨な事件は、衆愚政治の愚かさをよく物語っています。

 

時は、紀元前415年、アテナイは200隻の軍船と数万の漕ぎ手と兵士をシチリアに向け出撃させた。

そして全滅するか、捕虜になってすべてが死んでいった。

 

戦史家トゥキュディデスはこの戦いを「ギリシャ史において、これ以上なく悲惨な敗北を喫し、完膚無きまでに打ち負かされた」と語っている。

 

 

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この戦いはなぜ始まったのか。

古代ギリシャとアテナイの絶頂期はペルシア軍を撃退した紀元前5世紀前半でした。

盟主アテナイは軍事力と軍事遠征で巨大な富を手に入れることに味を占め、やがてギリシャ全土が戦いに明け暮れるようになった。

その大きな戦争の一つがスパルタとアテネが勢力を二分して戦ったペロポネソス戦争(B.C.431-B.C.404)で、これが衰退の始まりでした。

 

アテナイは絶え間ない戦争で疲弊していたが、降ってわいたシチリアからの救援要請に、世論は慎重派と積極派に分かれた。

慎重派はアテナイの国力が前回の戦いから充分回復していない状況で、兵力が充分な手強いシチリアへの遠征は無謀だとした(これは的確な情報分析だった)。

 

すると、若い煽動家アルキビアデスは、シチリアは大きいとは言え、烏合の衆であり、気概のある相手ではなく、この際、支配権を拡大する絶好の機会だと訴えた。

そして大勢は決し、しかも大編成で行うことになり、彼は遠征軍の三人の司令官の一人に任命された。

 

ところが出撃すると、彼は神像破壊の容疑者としてアテナイから召喚を命じられます。

彼は日頃から傲慢で放埓であった為、敵が多く疑いがかけられたのです。

すると彼は敵国スパルタに亡命し、アテナイの情報を漏らし、スパルタにシチリア遠征を薦め、遂にアテナイ軍は殲滅されることになった。

 

なぜこんな裏切り者の軽薄なアルキビアデスの言をアテナイ市民は信じたのだろうか?

彼は名門貴族の出で、ソクラテスの弟子であり、演説家、政治家で、その美貌と才能によって市民に絶大な人気があった。

また彼は野心家で、それまでも遠征を焚き付けており、今回、成功すれば自分の名声と富が一層高まることをもくろんでいた。

彼の演説を聞いたアテナイの若者達は、昔の栄光の再来を夢見て、遠征に熱狂していったのです。

その後、アルキビアデスは各地で問題を起こし、ついには暗殺された。

 

この話には更に落ちがあります。

始め、アテナイはシチリアでの敗北を信じず、やがてパニックになった。

慎重派があれほど無謀だと指摘していたにも関わらず、現実逃避していたのです。

 

その後、アテナイの同盟国が次々と反旗を翻した。

その混乱の中、アテナイは民主政を捨て暴政にのめり込み、あらゆる面で衰退が加速していった。

ちょうどこの頃(B.C.399)、皮肉屋のソクラテスは濡れ衣を着せられ毒殺されることになった。

その後、アテナイはスパルタに占領され、さらに半世紀後(B.C.338)にはマケドニア王国に屈服し、ついに命脈は尽きた。

 

 

4ソクラテスにシケリア遠征の中止を説かれるアルキビアデス

< 4. ソクラテスがアルキビアデスにシチリア遠征の中止を説く >

 

 

何が問題なのか

まさに、アテナイのこの一連の事件には「はじめに」で紹介した衆愚政治のパターンが凝縮されている。

 

閉塞状態に陥っていたアテナイ市民は、アルキビアデスの欠点には目もくれず、途方もない夢だからこそ飛びついたと言える。

彼は野心家で、大言壮語し、責任を取るどころか裏切りすら平気な人物でした。

そんな人物に振り回され、あれだけ栄華を誇り、民主政を生み出した国家が無惨な結末を迎えたのです。

 

もしアテナイの市民が煽動家アルキビアデスを信じなければ、または彼が生まれていなければアテナイは繁栄を続けることが出来たのだろうか?

この文章でアルキビアデスをヒトラーに替えたら・・・・。

 

大なり小なり、代わりの人物がこのトップの役を担うことになるでしょう。

もっとも、アルキビアデスやヒトラーほど優秀(極悪)ではなく、損失はまだ少なくて済んだかもしれませんが。

つまり、最も恐ろしいのはこのような人物をトップに崇める人々、偏向したマスコミ、権益擁護者の存在なのです。

 

 

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現在、あなた国のトップは、このアルキビアデスのような人物ではありませんか?

その人物は家柄が良く人気があり、大言壮語し、力に頼り、敵を激しく罵り、簡単に辞めたり、方針転換したり、都合が悪くなれば逃げ回る人物ではありませんか?

 

もし居るとすれば、衆愚政治を支える人々が多く居ることの証であり、それが減らない限り、同じようなことが続くことになる。

とりあえず、そんなトップは居ない方が良いのですが。

 

 

皆さん、くれぐれも注意願います。

 

 

 

 

Categories: culture+society, <japanese language, Series: False rumor, prejudice, blind spots | Tags: , , , | 2 Comments

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2 thoughts on “デマ、偏見、盲点 20: 衆愚政治の恐ろしさ

  1. Oh, we humans consistently destroy paradise, don’t we?

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